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2025年8月

睡眠障害は症状ではなく病気です

 WHO(世界保健機関)が現在知られている病気(疾病)のほとんど網羅したICDという診断分類法があります。医療先進国はもちろんのこと、世界193カ国でICDは使われている重要な病気の公式分類です。ICDを使うことで、例えば、カルテの正式な病名を付けたり、病気の分類することで国際間での比較ができます。日常診療のほか医学活動全般に重要な役割となっています。2022年新しいICDが作成され、なかでも睡眠障害を独立させて大分類疾患として扱われる画期的なことになりました。世界で睡眠-覚醒障害がいかに重要な疾患かということを示すものです。
さて猛暑は私たちの生活にさまざまな悪影響を与えますが、その中でも大きいのは睡眠です。気温が高く、じっとしていても汗が出てくるような部屋では、なかなか眠れないし、眠りに落ちても目を覚ましやすい。起きる時間がある程度一定なら、必然的に睡眠時間は短くなる。
 日本人を対象にした研究で、季節によって睡眠時間が変わることが分かりました。四季で見ると、睡眠時間が最も長いのは冬で、最も短いのが夏でした。冬に比べて、夏は約12分睡眠が短くなっていたという。夏の就寝時の妥当な室温は24~26℃程度とされている。日中だと26℃は少し高く感じるが、睡眠中はあまり下げすぎないほうがいい。エアコンは「朝までつけっぱなし」が基本ですが、中には冷房が苦手な人や光熱費が気になる人はタイマー機能を使い、睡眠の前半4時間だけでもエアコンを使って適温(24~26℃程度)を保つといい。
 家庭用の血圧計が普及したことで、受診のきっかけにもなったように、スマートフォンなどで睡眠の簡易計測により、睡眠の状態が大まかにわかるようになってきました。自分の睡眠をある程度可視化されるだけでも、睡眠を含めて生活を改善していく動機付けになります。実際、睡眠が6時間未満で8割以上、5時間未満になると9割以上の人が、倦怠感や睡眠に対する不満を訴えています。特に働く世代の睡眠時間のあり方については、生活習慣病やがんの対策と同等かそれ以上に、社会として取り組んでいかなければいけない問題になっています。
 2021年にOECD(経済協力開発機構)が行った調査によると、加盟33カ国で睡眠時間が最も短かったのは日本でした。平均より約1時間も短かった。日本人はよく働くからと考える人もいるかもしれませんが、労働生産性との関係を見ると、日本はかなりダメなことが分かります。ある試算では、日本の睡眠不足による経済損失は年間約15兆円に達するそうです。GDP(国内総生産)比で見ると日本は2.9%で世界のワーストワンでした。
 睡眠不足は電車の中で居眠りしたり、週末にちょっと寝だめをしたりすると、眠気は一時的に取れます。そうすると、「なんとかやれている」と思ってしまう。しかし週末の寝だめや昼寝で眠気が取れても、睡眠負債の健康リスクは全く解消されません。
 睡眠医学が進んでメラトニンのようなホルモンが睡眠リズムを調整したり、オレキシン受容体のような覚醒系の神経の研究が進み新しい睡眠薬が世に出てきました。
 一方、薬に頼るのではなく睡眠の質を向上させるために運動も有効です。特に、筋トレを選ぶとよいようです。加齢とともに睡眠の質は低下してきます。高齢者の12~20%が不眠症で、その重症度は若い人々に比べて高いことが分かっています。不眠症は、うつ病や不安、その他の精神疾患と関係することが示されており、メタボリックシンドローム、高血圧、心疾患との関係も示唆されています。さらに、認知機能の低下や前立腺がんとの関係を示した報告もあります。睡眠時間が1日5時間を切るようになると、突然死とか、心筋梗塞や脳卒中での死亡リスクが何倍にも跳ね上がるという疫学データがあります。